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help リーダーに追加 RSS 読書日記 『暗い国境線』上下2巻 逢坂剛 著 講談社文庫

<<   作成日時 : 2009/01/14 23:14   >>

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 『暗い国境線』上下2巻 逢坂剛 著 講談社文庫
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紀伊国屋ブックスの紹介から

「わたしは、情報員である前に人間でありたい」

第二次世界大戦下のスペイン・マドリードで、敵同士ながらも愛し合う北都昭平とヴァジニア。
そして二人をつけ回すゲシュタポ将校ハンセン兄弟の魔の手。北都への想いと連合国への忠誠の狭間で、身を引き裂かれるヴァジニア。二人はその愛を全う出来るのか―。愛と諜報の壮大なドラマ。


これだけ見れば激動の時代に生きた二人の愛のドラマといった趣ですが、わりと読んだ感じはどちらかと言えばトムクランシーやフォーサイスのような国際諜報サスペンスと言う感じです。

これは第4作なのでここから読み始めるというのもどうかなという感じですけど、ここから読んでもなんとなく読めます。クランシーのライアン博士シリーズみたいな感じで単独でも読めますが順番に読んだほうがエピソードがつながるのは当然です。以下は読売オンラインから紹介の記事を

物語は、日系ペルー人宝石商としてマドリードに送り込まれた日本人将校・北都昭平を主人公に、シリーズ第1作『イベリアの雷鳴』ではフランコ暗殺未遂事件(40年)、第2作『遠ざかる祖国』では日米開戦(41年)、第3作『燃える蜃気楼』では連合軍の北アフリカ上陸作戦(42年)を巡る枢軸国側と連合国側の息詰まる謀略戦を描き出す。
 最新作では、偽の作戦文書を身につけた英国将校の死体を漂流させるという、英米が実際に行った対独欺瞞(ぎまん)工作が軸となる。独・国防軍情報部の長官でありながら反ナチスを貫くヴィルヘルム・カナリス、20世紀最大のスパイと呼ばれるキム・フィルビーら実在人物をからめ、和平の糸口を模索する北都の懊悩(おうのう)を描く。
 さらに、互いに敵と知りつつ愛し合う北都と英国の情報部員ヴァジニア。「祖国の劣勢を知りつつ情報収集を続けなければならない、北都の虚(むな)しさを救えるのは女の愛しかないのです」
 第2次大戦中、須磨弥吉郎・駐西公使がスペイン人スパイの協力を得て情報収集を行っていた――という78年の新聞報道が出発点となった。当時、入手可能な資料がほとんどなく、日本の外交史料館で戦時中の外交電信をひもとき、米・国立公文書館が公開した暗号解読文書でも事実を確認。洋書の研究書にも可能な限りあたった。フィクションでありながら、作品は緻密(ちみつ)な歴史観に裏打ちされている。
 「当時の暗号解読の実態を研究してみると、米国の参戦を促すために、日本側から開戦させようと四方から追いつめていった状況が見て取れる。歴史の表裏を客観的にとらえる視点が必要だと思う」
 大戦が終結する45年を描く第6部まで、書き継ぐ予定。次回作の焦点は、連合国のノルマンディー上陸作戦とヒトラー暗殺未遂事件(44年)となるらしい。それにしても、愛国心と個人の感情の間で引き裂かれる大恋愛の行方が気になって仕方ない。「私の小説では、主人公が惚(ほ)れた女性は必ず死ぬと言われているようだけど、今度は裏をかくかもしれない」と、ニヤリとした。
(2006年1月24日 読売新聞)


佐々木譲氏の第二次大戦シリーズと並んで日本人作家離れした内容で読ませてくれます。この逢坂氏と佐々木氏は時代小説も書けば現代小説も書くしこういう第二次大戦という特殊環境下の小説も書きます。この守備範囲の広さは浅田次郎とこの二人ぐらいしか日本では浮かびません。松本清張さんがそういえばこんな感じの書き手でしたね。

逢坂氏は特別スペインに造詣が深く、ギターの番組では自慢のコレクションを 村治佳織さんほかプロのギタリストに弾いてもらうという企画で出演していました。スペインというのはなにか情熱のフラメンコや闘牛など、非常にヨーロッパでも独特の文化(そういえばパエリアや魚や貝も食べるし)があって僕も心惹かれるのですが、考えてみれば日本に最も早い段階で触れた西洋はポルトガルでありスペインであったわけです。スクエアなプロテスタント文化の英米よりも300年も早く日本に文化流入していたカトリック文化が今も色濃く残っていてそれが魅力なんでしょうね。イタリアにもそういう魅力がありますけど。宗教を別にしたら北のヨーロッパより南のヨーロッパのほうがわれわれにはずっと親しみやすいというのもあります。

80年代以降に明らかになりつつあるいろいろな歴史的新発見に裏づけされたこの話はフィクションでありながらフィクションでない部分も絡めた素晴らしい読み物になっています。戦時中、スペインやスイスやスウェーデンなどの日本人たちの和平へ活躍がなんら本土の役に立たなかった事実やロバートキャパの有名な「狙撃された民兵」やヘミングウェイの「日はまた昇る」やピカソの「ゲルニカ」などで知るスペイン内戦の真実が見えてきます。フランコ総統は戦後もスペイン独裁していましたが、ファシストと見られて、内戦ではヒトラーやムッソリーニーに借りを作った形で何ゆえ枢軸として参戦しなかったのかの真実も見えてきます。あっさり3国同盟に乗っかって戦争に突き進んだ日本と比べなんとヨーロッパ人のしたたかなことかを今更ながらに知る話です。

ろくに戦争をしないまま、戦勝国になったフランス、ヒトラーの恩義を袖にしたスペイン、ソ連相手に粘りに粘ったフィンランド、この戦争を通じて国家建設を勝ち得たユダヤ人(それが今の中東問題にもつながるのですが)東西両陣営の綱引きを利用して東欧圏ソビエト化を防いだオーストリア、あっさりムッソリーニを切り捨てて早々戦争を切り上げ最終的に戦勝国サイドにたったイタリアなどみんな自国の権益のために最大限の努力をしているのに、日本はあまりに無策であったとしか言いようがありません。明日にでも参戦しそうなソ連に和平工作を依頼しようとした戦争末期の日本は同じ日本人としてどうしてそこまで能天気なのかと思わざるを得ません。

藤原正彦の本でも紹介されていたチューリングが暗号解読の天才として登場する反面、日本人の暗号に関する甘さなども痛烈に感じます。主人公の北都昭平はいわばコスモポリタン的な存在でペルー人でありスペイン人である日本人でこんな人間が史実の日本人にいればと思うような人物です。実在の人物なら白洲次郎が一番近い存在かもしれません。この小説ではドイツアプヴェアのカナリス提督がかなり大きな存在感も持っていますが、現実には結局ヒムラーに勝てなかったわけで(もちろんヒトラーにも)この小説ではこのあとどう描かれていくのか興味あります。

そういえば現実のニュースとして最近やっとイギリスではMI5だかMI6の長官の名前を公表しましたね。さすがイギリス、カウンターインテリジェンスあってこその小国が大国足りえる諜報の歴史の重みを感じました。個人情報保護の履き違えや国軍(そもそも自衛隊などと言う用語のごまかしが国際的に通用すると考えるほうが能天気)の幕僚が国家の意思統一に従えないほどの内部統制の甘さ、平気でイージス艦の情報を漏洩させる士官、どこの国の国益を守っているのか分らない外務省など日本の甘さは今も変わっていませんね。

また全然本の話になっていませんが、ともかくこの逢坂氏のイベリアシリーズはお勧めです。

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